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大学と政治――近代日本の大学の自治、その建設と破壊
瀧川幸辰[著]

学問を権力、財力、俗論から守る――理念とその実践者たち

大学の自治をめぐる戦いのドラマ。大学の理念は帝国大学時代から進歩しているのか、後退しているのか。京都帝大法科の精神と瀧川事件のあとさき。死して生きる道の記録。

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造本 四六判上製 352p
価格 定価6930円(本体6300円+税10%)
刊行 2024年5月
ISBN 978-4-910213-49-1 C0021

目 次

Ⅰ 近代日本の大学の自治

大学の自治/大学の自己主張/死して生きる道/責任と義務/研究の自由/大学の自由と政治的行動/最高学府の性格/自由と責任/京都大学創立六十年

Ⅱ 研究の自由――いわゆる京大事件

まえがき/『復活』事件(一九三二年)/『刑法読本』問題(一九三三年)/客観主義の刑法/或るエピソード/辞職勧告(一九三三年四月)/大学の自治/澤柳事件(一九一三年)/研究の自由/「暗黒時代」/あいまいな罷免理由/附記

Ⅲ 激 流


いわゆる「瀧川事件」の発端/中央大学での「『復活』講演」/草野さんの「瀧川幸辰氏に糺す」/新城総長の言動/「糺す」問題の結末/鳩山文相の車中談/国会での思想問題/BK放送での大審院判決批評/宮澤裕議員、『刑法読本』を問題視/客観主義刑法理論/『刑法読本』と大畑さん/シナ服がけしからん/ある長老教授の不可思議な発言

『刑法読本』の発売禁止/問題の表面化/小西総長と文部当局との会見/小西総長の声明/長江丸での不快な事件/無政府主義者からマルクシストに/軍部の干渉――竹田省先生のこと/長老教授=“策動”教授/文部省の卑劣な策謀/母の教訓/策動的な学内評議会

大学自治と人事/大学自治獲得の由来/国立大学の沿革/「澤柳事件」のきっかけ/澤柳総長の大学改革の構想/「澤柳事件」の経過/佐々木惣一先生の「秋の感懐」/佐々木先生の苦境/学生から見た「澤柳事件」/辞表提出から「澤柳事件」落着まで/「澤柳事件」のポイント

“こまっている”文部省と鳩山文相/小西総長の不可解な沈黙/「河上事件」のあらまし/「学連事件」の思い出/京大講演部での河上肇氏の講演/引続き蓑田胸喜氏の講演/意外にも軍事教練反対者となる/軍事教練反対のいきさつ/軍事教練反対の後日譚/法学部総辞職の舞台裏/静かなる訣別

警察、右翼の蠢動/訣別声明書の内容/小西総長の辞意撤回/はっきりしない私の休職理由/宮本法学部長の反駁/『刑法読本』は姦通を奨励している/『刑法読本』の内乱罪/“監獄が理想社会”?/『刑法読本』での尊属殺/無責任な文部大臣/テンテコ舞いの文部省内

休職発令後の一般情勢(一)/休職発令後の一般情勢(二)/四教授連署の「辞表進達促進願」/小西総長、文部当局と折衝/小西総長の立場/小西総長の“秘策”=“妥協案”/新聞に報道された鳩山・小西解決案/法学部及び佐々木教授の反論/小西総長辞任後一週間の模様/松井総長の果断にお手あげの報道陣/事件の表面的な落着

不見識きわまる松井総長と留任問題/免官二教授と残留七教授の声明書/法学部、事件前の三分の一に縮小/京大復帰者の忘恩的態度/弁護士開業の事情/帝国軍人と闇取引/検事の人権じゅうりん/国粋団体「七生会」の深夜の脅迫/いわゆる「毒饅頭事件」に関係する/「毒饅頭事件」にまつわる思い出/好印象のもてたただ一人の検事/慣例化されている“裁判所時間”/住宅侵入罪で裁かれた姦通罪

最後の大阪爆撃と天皇のラジオ放送/大学復帰の新聞報道/京大への復帰を正式に求められる/復帰について三人三様の見解/佐々木先生に御相談する/「竹田覚書」の全文/恒藤君の起草した復帰宣言/黑田放言と鳥養総長の早わざ/教官の資格審査に踏みきる/専任教授の補充に踏みきる

新制大学の発足近づく/平田教授の『京大法学部事件批判』/苦労させられた教養部の設置/吹きあれる赤色の突風/エチケットを知らない女子学生/通称「看護婦事件」の醜状/“教育者”に冷汗/総長代理時代の仕事/定年問題の挿話と総長選挙規程改定/総長選挙の決戦に敗れて喜ばれる/「天皇事件」のこと/大学自治のはきちがえ/私への暴行事件

●著者紹介

瀧川幸辰(たきかわ・ゆきとき/1891-1962)
刑法学者。1915年、京都帝国大学独法科卒業。京都地方裁判所判事を経て、1918年、京都帝国大学法科大学助教授就任。刑事法学担当。1922年から24年までドイツに留学し、M・E・マイヤーなどに師事。1924年、京都帝国大学法科大学教授就任。1933年、著書『刑法読本』や講演が危険思想とされて休職処分を受け退官(瀧川事件=京大事件)。立命館大学講師、弁護士として活動。1946年、京都帝国大学教授に復職。法学部長と総長を歴任。日本刑法学会初代理事長。日本学士院会員。主著、『刑法講話』、『犯罪論序説』等。他に多くの随筆集もある。罪刑法定主義を強調する立場と犯罪の根源は社会にあるという思想を結びつけた刑法理論を主張した。