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最後の人間からの手紙――ネオテニーと愛、そしてヒトの運命について

遺伝子工学時代のモラリスト、D-R・デュフール、初の邦訳

性器と脳――それはどのようにしてヒトであることの、この上ないしるしである器官となったのか。知識と快楽を結び合わせる秘密の糸とはどんなものか……。哲学風の掌編物語とエッセイの中間を行く本書は、いま何が世界の将来を深刻に脅かしているのかを問うために、ヒトというあり方の歴史全体を今一度訪ねなおし、死にうることの幸福と、人間が脆弱な動物として生まれることの尊さを語る。

ここのリンク先で本書のなかをご覧いただけます(PDFファイル)


著者 ダニ=ロベール・デュフール(Dany-Robert Dufour)
訳者 福井和美
書名 最後の人間からの手紙 ネオテニーと愛、そしてヒトの運命について
原書 Il était une fois le dernier homme
体裁・価格 四六判並製 320p 定価2970円(本体2700円+税10%)
刊行 2017年5月
ISBN 978-4-906917-66-2 C0010

●目 次

第1章 愛しいひと、牝豹のように優雅でしなやかなひとよ
第2章 ぼくそのものが恥ずべきやっつけ仕事の産物なんだ
第3章 牝豹のように優雅でしなやかなひとよ、みにおいで、ネオテーヌを、アホロートルを、ボテロのヴィーナスを
第4章 オンサ、ぼくじしん、時間
第5章 二本の手、書くこと、文法
第6章 人間、神、犬
第7章 めまい、知識、快楽についての手紙
第8章 きみ、ぼく、愛、死
第9章 悪魔、そしてネオテーヌの情熱――たえずより多くもつこと
第10章 〈バンビ〉という症状
第11章 人類というお荷物をほんとうに片づけるべきか

●本書について

哲学風の掌編物語とエッセイの中間を行く本書で、ダニ=ロベール・デュフールは哲学者として、現代世界の批判というみずからの作業を推し進めていく。そして、なにがこんにち、世界の将来を深刻に脅かしているのか、それをよりよく問うために、いまいちどヒトというあり方の歴史全体を訪ねなおしてみようと呼びかける。

われわれに似たあのメキシコ産の魚アホロートル、ブラジル奥地の密林に棲むジャガー、童話に登場するオオカミを呼び出し、プラトン、アルベルト・アインシュタイン、マイケル・ジャクソンとともに議論を重ね、ときにみずからをシャーロック・ホームズに擬し、語り手は「愛しいひと」にむけて十通の手紙を書く。それぞれの手紙は、ヒトと呼ばれる奇妙な動物種が駆け抜けてきた時間の旅、その旅程を画する鍵となる各時期に対応する。

この種を特徴づけているのは、他の生物のどれよりも卓越しているということではない。形態が未完成で、「生まれつき」弱いということだ。すなわち、「自然の不足」ということ。この不足を唯一埋め合わせてくれるのが文化――ことば、物語、科学、技術――であり、文化はヒトをして世界にはたらきかけ、世界によりうまく住まうことをさせてくれる。すくなくともいままでは。ところが、こんにち、みずからの益にかなう「超人類」を創造するという強者の夢が、種の延命を危機におとしいれようとしている。

なにをなすべきか。人類に終わりをもたらそうとするこの危険な試みを拒もうとするなら。人類がたどってきたかくも美しく、かくもひたむきな冒険をさらにつづけようと望むなら。抵抗のチャンスは、まだ残されている。

●著訳者紹介

ダニ=ロベール・デュフール(Dany-Robert Dufour) 1947年生まれ。元パリ第八大学教授。脱宗教化する現代の宗教(現代の神である「市場」)、ポストモダン(脱主体化)の帰結としての人間の機械化(生命工学による人種改良)、ポルノグラフィーへと変質するエロチシズム、富の集中と世界の貧困化、それらの思想的バックボーンをなすネオ・リベラリズムなどを論ずる、現代フランス思想界屈指の「フィロゾーフ」のひとり。著書、『神なる市場』(2007年)『頽廃の都市』(2009年)『来たるべき個人…リベラリズムのあとに』(2011年)『西洋の錯乱』(2014年)等。

福井和美(ふくい・かずみ) 1953年生まれ。翻訳家。訳書にC・レヴィ=ストロース『親族の基本構造』(2000年、青弓社刊)など。