媒介的自立の哲学――田辺哲学イントロダクション
西田哲学に対する田辺哲学とは何か
対決関係でもなく折衷的融合的同一化でもない、相容れないもの同士における積極的関係を示す、価値転換の哲学。科学・哲学・常識・宗教、論理と倫理、合理性と実証性、西欧的存在論と東洋的空観……。知性および精神性諸ジャンルの関係はいかにあるべきか。
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著者 田辺元
書名 媒介的自立の哲学 田辺哲学イントロダクション
体裁・価格 四六判上製 320p 定価3850円(本体3500円+税10%)
刊行日 2013年4月30日
ISBN 978-4-906917-12-9 C0010
●著者紹介
田辺元(たなべ・はじめ)
1885年生、1962年歿。京都帝国大学教授。西田幾多郎に次ぐ「京都学派」の哲学者。科学哲学、数理哲学から出発し、観念弁証法と唯物弁証法をともにこえるための独自の絶対弁証法を提唱し、西田幾多郎の「西田哲学」に対して「田辺哲学」と称された。「媒介」をキーワードとして哲学の立場から科学や宗教など多領域の相互関係を考察。著書に『数理哲学研究』『数理の歴史主義展開』『懺悔道としての哲学』『哲学入門(全4巻)』『ヴァレリイの芸術哲学』など多数。
●目 次
常識、哲学、科学
科学性の成立
物理学と哲学
量子論の哲学的意味
倫理と論理
キリスト教とマルクシズムと日本仏教 ――第二次宗教改革の予想
正法眼蔵の哲学私観
西田先生の教を仰ぐ
田辺元略年譜+著作リスト
索 引(キーワード+主要人名)
●本書について
田辺の哲学は、初期の科学・数理哲学、発展期の「種の論理」、転換期の「懺悔道の哲学」、そして晩年の「死」をめぐる哲学というように、論点のジャンルは広範囲にわたっています。従来、「種の論理」あるいは「絶対弁証法」をキーワードにして語られることの多かった田辺哲学ですが、このたび田辺哲学の入門書となることを意図して刊行するこの田辺の論文選では、田辺哲学への一つの入り口として「媒介的自立」というキーワードを設定し書名に掲げました。
「種の論理」、「懺悔道」、あるいは「死の哲学」というように幾つかの主要論点からなる田辺哲学の全体は「媒介」というキーワードに貫かれています。観念弁証法(ヘーゲル)と唯物弁証法(マルクス)をともにこえるための独自の「絶対弁証法」を提唱する田辺哲学が「媒介」をキーワードとするのは当然であるにしても、その「媒介」とはどのような「媒介」であるのか。
田辺哲学が新たな哲学素として提出する「媒介」は、止揚が全体化に帰結する弁証法を意味するものではなく、相容れない物同士が、止揚において個々の自立性をかえって高めるものです。
本書は、この田辺哲学の個性をわかりやすく見て取る方法として、知性および精神性諸ジャンルの、媒介的な関係性を論じたテキストを選択しました。例えば、常識と哲学と科学と宗教とはそれぞれ違うものですが、この、重なりうる部分もありながら強く対立するそれぞれ同士の関係は、田辺哲学の視点から見るとどのようなものとしてあるのか。論理と倫理、合理性と実証性といった関係もこの立場から考察され、さらには、西洋的存在論と東洋的空観との「媒介的自立関係」という、西田・田辺の時代ならではの先駆的な世界史的新課題も示されます。