近代日本官僚政治史
中央集権の近代化と官僚界の形成
官僚はいかなる事情で国政の本体を担う存在となったのか。政治史から浮かび上がる官僚界の歴史を概説する入門書。対抗勢力/親和勢力との関係から見える官僚界の特質を明かし、民意からの隔絶という伝統の淵源を幕末以来の事情に探る。
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著者 田中惣五郎
書名 近代日本官僚政治史
体裁・価格 A5判上製 416p 定価6930円(本体6300円+税10%)
刊行日 2012年10月30日
ISBN 978-4-906917-06-8 C0021
●著者紹介
田中惣五郎
(たなか・そうごろう)
1894年生、1961年歿。日本近代史家。高田師範卒業。順天中学教諭、鎌倉アカデミアへの協力を経て、明治大学講師となり、のち明治大学教授。教育の仕事と並行して社会運動、執筆活動を行い、著作は『日本叛逆家列伝』『東洋社会党考』『天皇の研究』『幸徳秋水』『吉野作造』『西郷隆盛』『北一輝』(毎日出版文化賞受賞)『日本ファシズム史』など、40点以上にのぼる。
●本書について(書肆心水)
本書は、田中惣五郎の著作、『近代日本官僚史』(1941年、東洋経済新報社出版部刊)と『改訂・日本官僚政治史』(1954年、河出書房刊)の合冊新版である。表記は新漢字・新仮名遣いにより現代化した。『日本官僚政治史』は『近代日本官僚史』の改訂版として刊行されたもので、通常は改訂版の刊行により初版は基本的な価値を失うものであろうが、以下に記す理由から、初版『近代日本官僚史』にも今日復刻する価値があると考えた。
改訂版の「はしがき」に記されているように、改訂版『日本官僚政治史』は、初版『近代日本官僚史』の幕末に関する部分を省き、大幅な改訂を施したものである。二書の目次を対照しただけでも改訂が全面的なものであることが察せられるであろう。改訂版の記述量は初版の約六割と、大幅に圧縮されている。初版と改訂版それぞれの刊行年における時局がしからしめたであろう著述態度の違いも大きなものであり、改訂版においては著者の史観による批評性が発揮されている。論じられる事柄も選択的に整理されて、著者の解釈が示された著作となっているといえよう。初版には見られない史料も多く採用されている。
改訂版に対する初版の存在意義としては、改訂版で省かれた幕末の歴史があることが第一である。第二は、改訂版の記述量が減ったために省かれた史実が、初版には多く記されていることである。初版は、全般的な政治的社会的状況の歴史を語りつつ、そこから時々の官僚に求められた職能や、官僚界の位置と動向を浮かび上がらせるといった方法で著されており、主題である官僚そのものについての言及が少ないと感じられる時代もあるが、その反面、時々の官僚界のありように関わる複合的な政治状況を詳しく伝えているという利点がある。
上記の理由から、二著の全体をあわせて一冊の新版として復刻することとした。初版と改訂版の関係であるから、重複する部分も多く、この二著の全体をそのまま掲載することには紙数の無駄があることは否めない。しかし、この貴重な労作を後世に継承するための一手段として合冊という選択をしたのである。本書はこうした事情のものであるから、まずは改訂版を読んで、後に初版によってその不足を補うように使われるとよいであろう。
●目 次
(第一篇) 近代日本官僚史
序章 官僚および世界官僚論
第一部 幕末の官僚擡頭時代
第一章 徳川幕府の新官僚
第一節 官僚擡頭の苗圃
第二節 軍事的新機構
第三節 経済的新機構と新人
第四節 教学への新機構と新人
第五節 国際的新機構と新人
第六節 新政治機構と新人
第七節 幕府の新官僚
第二章 反幕藩薩摩の新官僚
第一節 薩藩の軍事
第二節 薩藩の経済
第三節 薩藩の文化
第四節 新人擡頭
第五節 幕末官僚の変革の条件
第二部 専制官僚時代
第一章 雄藩聯盟より官僚専制制確立へ
第一節 総 説
第二節 徴士、貢士時代
第三節 公選前後
第四節 西郷内閣
第二章 官僚の分裂と統一
第一節 概 観
第二節 新しき武力
第三節 征韓論と自由民権論
第四節 大久保内閣
第三章 民権派との抗争
第一節 概 観
第二節 政党の擡頭と文武官僚の分離
第三節 官業払下と官僚のドイツ化
第四節 政党解消・内閣成立・憲法発布
第五節 官僚の苗圃としての大学とその特権確立
第四章 議会への制圧と官僚の変質
第一節 概 観
第二節 政党の復活
第三節 第一議会
第四節 松方内閣と民党弾圧
第五節 伊藤と政党懐柔
第六節 日清戦争
第三部 政党官僚時代
第一章 伊藤の政党組織と官僚
第一節 概 観
第二節 政党の活躍
第三節 政党的内閣と軍事官僚的内閣
第四節 伊藤と政友会組織
第五節 桂と日露役
第二章 桂の同志会結成と官僚
第一節 概 論
第二節 第一次西園寺内閣
第三節 第二次桂内閣
第四節 大正の政変
第三章 原内閣前後
第一節 総 論
第二節 社会主義運動・日本主義運動
第三節 原内閣へ
第四節 三つの超然内閣
第四章 憲政常道時代と官僚
第一節 総 論
第二節 護憲三派内閣
第三節 第一次若槻内閣と枢府
第四節 田中内閣と枢府
第五節 浜口内閣
第四部 新官僚時代
第一章 満洲事変と官僚の擡頭
第一節 総 論
第二節 第二次若槻内閣と官僚の反噬
第三節 満洲事変
第四節 五・一五事件
第五節 軍部官僚の擡頭
第六節 無産党の国家主義的傾斜
第七節 右翼陣営の強化
第八節 政党への追撃
第九節 第六十五議会と政党の反撥
第十節 国民運動の退潮
第二章 二・二六事件から支那事変へ
第一節 総 論
第二節 岡田官僚内閣
第三節 議会闘争
第四節 官僚軍部の進迫
第五節 二・二六事件
第六節 広田内閣と粛軍
第七節 軍部と政党の衝突とその統合としての官僚
第八節 林内閣の成立
第九節 近衛内閣と支那事変
(第二篇) 日本官僚政治史
序章 官僚について
第一章 近代的官僚の発生
一節 天皇制藩閥専制官僚
一 一八七三年―明治六年の官僚
二 藩閥官僚発生の基盤
三 官僚生成の幕府の場合
四 官僚生成の薩摩の場合
五 変革のイデオロギー
二節 藩閥官僚の推移
一 藩閥官僚政治樹立への操作
二 操作への二
三節 官僚の特権確立と各分野への天下り
一 官僚族・三井と三菱
二 武官官僚の特出と対立
三 官僚の基盤としての経済力
四 爵位制度による特権確立
第二章 政党駆使と妥協の官僚
一節 立憲的官僚制と武官官僚の特出
一 文官官僚養成所としての帝国大学
二 武官官僚養成所としての陸軍大学
三 憲法の官僚専制性
四 藩閥官僚の後退
五 政党的隈板内閣の組成と軍部の強襲
二節 文武官僚の再編成
一 任用令による構築
二 官僚に屈伏した政党政友会
三 軍閥内閣の完成
三節 軍閥官僚の傾斜
一 日露戦争とその影響
二 勤労階級の成長と弾圧
三 軍閥と政党の比重
四 軍閥の思い上りとつまずき
五 軍閥の頭目に節を屈した政党同志会
四節 陸海軍閥の抗争と文官の政党化
一 山本内閣の官僚圧迫
二 海軍閥の凋落と大隈内閣
三 勤労大衆の成長と軍閥内閣の打倒
第三章 官僚のファッショ化
一節 政党内閣の官僚性
一 経済面に見る
二 人的な面から見る
三 政党内閣時代の国家機構と官僚制度
四 官僚の政治力といわゆる政党の政策
五 軍縮への武官的不満とファシストの胎動
六 無産階級運動
二節 新文武官僚の進出
一 日本的ファシズム
二 日本的ファシズム〔二〕
三 青年将校的軍部と新官僚的官僚の系譜
四 青年将校による軍部の進出
三節 ファシズム第二期
一 軍部―武官の制覇
二 文武官僚と財閥・政党
三 無産階級の反撃と妥協