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カリフ制再興――未完のプロジェクト、その歴史・理念・未来


文明の衝突をこえてイスラームの平和をめざすカリフ制再興思想とはいかなるものか

「カリフ制再興」とは何かを初めて詳説。戦乱のイスラームから法治のカリフ制への道を示す論理。「イスラーム国」の根源的批判を可能にする視座と、真のカリフ制を再興するために必要な歴史的・法学的知識を呈示。現代の世界秩序と国民国家システム変容の関係を明らかにする、かつてないユニークな文明論。

ここのリンク先で本書のなかをご覧いただけます(PDFファイル)


著者 中田 考
書名 カリフ制再興――未完のプロジェクト、その歴史・理念・未来
体裁・価格 四六判並製 256p 定価1980円(本体1800円+税10%)
刊行 2015年2月
ISBN 978-4-906917-38-9 C0014

カリフ制再興は過激な一部の組織だけが唱えているものではなく、イスラーム学界では誰も反対する者がない定説であり続けている。そのカリフ制再興が妨げられ実現しないのはなぜか? 本書は、その歴史的事情と、その理念が現代世界にもつ意味と、カリフ制再興が開く人類の未来展望とを説き明かす。

●目 次

序 アナーキズムとしてのカリフ制
1 カリフとは何か
2 イスラーム学とカリフ
3 カリフ制の歴史的変遷
4 現代イスラーム運動
5 カリフ制再興の現在
6 カリフ制再興の文明論
エピローグ カリフ制と人類の未来
索 引(16ページ)

●著者紹介

中田考(なかた・こう)

1960年生まれ。1983年入信。ムスリム名ハサン。1984年東京大学文学部卒業。1986年東京大学大学院人文科学研究科修士課程修了。1992年カイロ大学大学院文学部哲学科博士課程修了(博士号取得)。1992年在サウディアラビア日本国大使館専門調査員。1995年山口大学教育学部助教授。2003年同志社大学神学部教授。現在同志社大学客員教授。2013年株式会社カリフメディアミクス創業。著書、『イスラームのロジック』(2001年、講談社)『ビンラディンの論理』(2001年、小学館)『イスラーム法の存立構造』(2003年、ナカニシヤ出版)『イスラーム 生と死と聖戦』(2015年、集英社)ほか。訳書、ムスタファー・アッスィバーイー『預言者伝』(1993年、日本サウディアラビア協会)ほか。監修、『日亜対訳クルアーン』(2014年、作品社)。

●刊行の辞(書肆心水)

内田樹さんとの対談『一神教と国家』(2014年2月刊)でイスラーム学者としての存在を広く知られるようになった中田考さんの最新作です。『一神教と国家』は集英社新書で既に5刷ということですので、そこで「カリフ制再興」のことを知られたかたはかなりの数にのぼると思われます。「カリフ制再興」は、著者が早くから提唱してきたものですが、「カリフ制」という言葉が世界中に広く知られるようになったのは、2014年6月29日に「イラクとシャームのイスラーム国」がカリフ制の再興を宣言したことに伴って「イスラーム国」と改称した事件以来のことです。

カリフ制はどのようなものとしてかつて存在し、なぜ失われ、どのような事情でその再興が求められてきたのか。カリフ制とイスラーム国というありかたの関係はどうなっているのか。今後の世界情勢にとってカリフ制再興はどんな意味をもつのか、本書はそうした問いにこたえるものです。

「そのへんも知りたいとは思うが、なにしろ著者はあの蛮行集団の支持者なのではないか」と、ご関心と共に疑問をお持ちのかたの場合は本書を通読されてご判断いただくのがよいと思いますが、さしあたり「あとがき」をお読みいただくとある程度のことをお察しいただけるかと思います。(目次とあとがきPDF)

現在の中東戦乱には待ったなしの救命策が必要です。と同時に、この状況は長年月の重層的な歴史の結果でもあり、過去を省みない「現実的」なオペレーションだけでは弥縫策の譏りを免れません。文明の衝突と見る向きもあるグローバル戦争、そして中東ローカルの部族戦争をこえて、統一的な法秩序によるイスラームの平和をめざす理念が「カリフ制再興」であることを本書は示しています。これは最も有力な理念ではありますが、それを具体化できるかどうかはイスラームする人々次第です。ただ、彼らに対する我々の態度がそこに及ぼす影響も少なくないというところに本書刊行の意義があります。

今この著者のほかに日本で「カリフ制再興」の問題を詳細かつ主体的に論じることができる人はいません。今後の世界を見通すために是非とも知っておくべき主張であると考えてこの機に刊行いたしました。お手にしていただければ幸いです。