本研究の概要と目的
*この項は、「本サイトの運営方針」と重なる内容も含んでいますが、ここでは特に本研究の「学問的立場」を説明いたします。
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本サイトは、独立行政法人日本学術振興会科学研究費補助金による助成事業として実施する研究内容について広く社会に公開し、情報の共有にもとづく学術研究の発展をはかることを目指しています。
当面は、日本語での情報発信になりますが、態勢が整い次第、能う限りフランス語や英語での情報発信も加えていこうと計画しています。
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本研究は、特有の漢字文で書かれているために長らく難解なものであり続けた『万葉集』という書物が〈なぜ近世の知の地平に蘇えり得たのか?〉という根本的な問題について正面から問い直すことから出発しています。
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われわれの中心的な研究対象は、17世紀末に僧・契沖の著わした『万葉集』の注釈書である『万葉代匠記』とその歴史的背景です。
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本研究の方法は、従来の契沖研究で主流をなしてきた国学史、和歌史、文献学をふまえながらも、思想史の地平に『万葉代匠記』をすえてその意義を分析することにあります。本研究が考えている「思想史」については、改めて述べることにします。
一言するならば、契沖には独自の思想史的な見通しがあり、そのなかで自覚的に仕事を進めていたと言えるでしょう。そして、われわれはこの点に研究の全加重をかけていると言っても過言ではありません。
要するに、本研究は、契沖が中世的な枠組みから自覚的に脱して、古代の言語そのものに即した考え方を徹底させていった過程を明らかにすることを目指しています。
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本研究は、契沖の『万葉代匠記』をテキストとして読むという態度を自覚的に打ち出しています。たとえば、契沖においては思想や方法は言語化されておらず、それは注釈の中に暗黙知的に示されているという考え方がありますが、『代匠記』の「総釈」を丁寧に読めばそれが単なる先入観であることが分かるでしょう。「総釈」のテキストは、契沖の解釈学を明確に語るものになっています。
また、『代匠記』の「初稿本」と「精撰本」の比較検討から契沖の解釈学の深化にかかる知見を整理していきたいと考えています。
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以上述べてきたように、われわれの研究では、契沖の思想史的自覚の裏面には彼固有の解釈学の定礎が見られています。契沖における「思想史」の地平の開けを彼の「解釈学」の確立と不即不離なものとして見ていく、それがわれわれの基本的な研究方針です。
この方法的命題を具体的に展開していくことにより斯界の発展に貢献できれば幸甚です。
2017年2月17日 研究代表者 西澤 一光