ひとつの町のかたち 地図の町とは似ても似つかない、ひとの数だけある心のなかの町のかたち。 少年と町、そして心の形成と変容をめぐっての、エキセントリックでも相対主義的でもない思想とリアリティ。 ゴンクール賞受賞拒否事件で知られる、地理学者でもあるシュルレアリスム系の文豪、後期主著初訳。 自己の過去と取り結ぶユーモアある清々しい関係が、「過去→現在→未来」の常識を一新し、自己と世界をつくりかえてゆく。 「少年と町」の記憶と無数の文学作品の引用が呼応する、創造的な思い出の旅。 「ではこれからナントの街並みをたどりなおしてみよう。過去と 出会って自己陶酔に浸り直すためではなく、私がそれらの街並みを介してなったものと、街並みが私 を介してなったものとに出会うために。」(J.G.) |
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著者 ジュリアン・グラック
訳者 永井敦子
書名 ひとつの町のかたち
原書 LA FORME D'UNE VILLE, Librairie JOSE CORTI, 1985
体裁・価格 四六判上製 288p 定価3630円(本体3300円+税10%)
刊行日 2004年11月20日
ISBN 4-902854-01-5 C1098
著者紹介 ジュリアン・グラック (Julien GRACQ) 詳細紹介(フランス語)
1910年フランス、メーヌ=エ=ロワール県のサン=フローラン=ル=ヴィエイユ生れ。ナントの高等学校を卒業後、パリのアンリ四世高等学校から高等師範学校に進み、中・高等教授資格(アグレガシオン)を取得した。第二次世界大戦での従軍後は、1970年まで地歴の教師として、主としてパリの高等学校に勤務した。
1938 年に処女作の小説『アルゴールの城にて』を出版して以来、多様なジャンルの作品を出版している。特定の文学流派には属さず、文学界において独立した立場を保っているが、ブルトンを中心とするシュルレアリストたちとは第二次世界大戦前後から交流した。
1951年には、『シルトの岸辺』によって授与されたゴンクール賞を文壇の商業主義への反発から拒否し、話題となった。現在も生家で読書と執筆と散策の生活を送っている。
主な作品には本書の他に、『陰鬱な美青年』(小説、1945)、『大いなる自由』(散文詩集、1946)、『漁夫王』(戯曲、1948)、『アンドレ・ブルトン、作家の諸相』(エッセー、1948)、『シルトの岸辺』(小説、1951)、『森のバルコニー』(小説、1958)、『偏愛の文学』(エッセー、1961)、『読みながら書きながら』(エッセー、1981)などがある。邦訳書多数。
ガリマール社が出版する「プレイヤード叢書」の『全集』第1巻が1989年に、第2巻が1995年に出版されている。作家の存命中に「プレイヤード叢書」の全集が完結するのは、きわめて稀なことである。
2007年12月22日歿。
訳者紹介 永井敦子 (ながい・あつこ)
1961年東京都生れ、上智大学大学院博士後期課程中退。1995年アンジェ大学にて文学博士号取得。現在上智大学文学部助教授。専門は20世紀フランス文学。著書に『クロード・カーアン』、水声社、2010年、共著書にJulien Gracq 3, dirigé par Patrick Marot, Minard lettres modernes, 1999, 『文化解体の想像力――シュルレアリスムと人類学的思考』、真島一郎、鈴木雅雄編著、人文書院、2000年、『はじめて学ぶフランス文学史』、朝比奈美知子、横山安由美編著、ミネルヴァ書房、2002年など、主な訳書に、ジュリアン・グラック、『アンドレ・ブルトン、作家の諸相』、人文書院、1997年などがある。
目 次
1 十一歳――ナントの高等学校での寄宿舎生活。奪われた自由が刺激した町への思い
2 「本当の町」へ――「本当の町」の私の規準、人口十万と路面電車
3 日々の空間――行政と軍隊と教会が支配する高等学校の周辺。植物園と美術館
4 郊外の散策――寄宿生の集団散歩。町の中心から放射状に東西南北の郊外や緑地帯へ
5 繁華街――町の顔をなす十八世紀以降の街並。劇場とその周辺が発する磁力
6 名所ぎらい――歴史的建築では町はわからない。周囲の土地に依存せず自律した町
7 川辺と港――町のロワール川ぞいの各地域と港の周辺。北側のエルドル川流域
8 社会と階級――高等学校にみた、中流階級が支配する保守的穏健社会のしるし
9 地理と歴史――地平線のような予兆に満ちた町、ナント
10 町と心――都市の遠心力と凝集力。感受性が選択する町の断片、暗号の鍵
(図版:Archives Municipales de Nantes提供)