Shoshi Shinsui




憂い顔の『星の王子さま』

続出誤訳のケーススタディと翻訳者のメチエ

噂の真相!
「定番」内藤濯訳は悪訳という噂は本当なのか?
「定番」に対抗して続出した新訳はどうなのか?


よい翻訳とは先ず第一に正しい翻訳であること。『星の王子さま』を真摯に愛する読者のために、“読み継がれて50年”の「定番」内藤訳と、新訳14点を具体的に検証。

「業界」は読者を欺いていないと断言できるか?

問題箇所を理解して、あなたの手元の『王子さま』を笑顔に変えるガイドブック。

   



* 書評記事の断片をご紹介してあります。 こちら のページへどうぞ。




◎長期品切
著者 加藤晴久
書名 憂い顔の『星の王子さま』 続出誤訳のケーススタディと翻訳者のメチエ
体裁・価格 A5判並製 256p 定価2420円(本体2200円+税10%)
刊行日 2007年5月22日
ISBN 978-4-902854-30-5 C0085


著者紹介

加藤晴久 (かとう・はるひさ)

東京大学・恵泉女学園大学名誉教授。元 日本フランス語教育学会会長、国際フランス語教員連合副会長。

目 次

第T部 批評はハッタリか ?

  1.『星の王子さま』はオトナのための小説か ?

  2.ボアはボアだ

  3.「飼いならす」とは「絆をつくりだす」こと

第U部 翻訳者の務め

  1.翻訳批評のルール

  2.「印象訳」という煙幕

  3.「翻訳者=演奏家」の陥穽

第V部 憂い顔の『星の王子さま』

  (内藤訳と新訳14点の問題箇所を具体的に検証)

「はじめに」より

「『星の王子さま』をフランス語で読む」という恵泉女学園大学で担当した公開講座の成果をふまえて『自分で訳す 星の王子さま』(三修社、2006年9月)を刊行した。左ページにフランス語原文、右ページに文法的、意味論的、語用論的、文体論的な注釈を加えた内容である。

注釈を付けるに際し、当然のことながら、翻訳書を参照した。周知のようにサン=テグジュペリのLe Petit Princeという作品は内藤濯訳『星の王子さま』として半世紀にわたり流通してきたが、独占的出版権の期限が切れたということで、2005年6月以降、新しい翻訳が続々と出版された。注釈を付けながら、内藤訳の間違いと不適切な箇所を新訳がどのように処理しているかを点検した。新訳ブームをめぐるいくつかの論評も読んだ。その過程で、この作品の翻訳は翻訳というものに関するより一般的な問題を提起していることに気がついた。その観点から書いたのが本書である。

本書の意義は三つあると思う。

まず、いかにして、根拠のない憶説がメディアをつうじて世のなかに流布するかをケーススタディで示したこと、

次に、翻訳というものがいかに難しい仕事であるかを翻訳にたずさわる者たちに、翻訳というものを信用してはいけないということを翻訳書の読者に、ケーススタディで示したこと、

そして最後に、自動車に欠陥が見つかれば、メーカーが無償で回収・修理する責任を負うリコール制度があり、その他の製造物の欠陥についても製造物責任法で製造者に賠償責任が生じるのに、出版社が欠陥翻訳の責任を問われない、翻訳公害垂れ流しの実態に一石を投じたこと、である。

◆実例紹介◆

◆王子さまと語り手が「心においしい水」を飲んで、至福を感じる作品のクライマックス。幸福感に満たされる一方、語り手は王子さまとの別れを予感しつつあるという文脈。
《それなのになぜこんなに悲しいのか》(新訳の一例)とでも訳されるべき文が、
苦労するわけなんか、どこにもありませんでした
英訳版の翻訳例は、"Why then did I also feel so sad?" "What brought me, then, this sense of grief?"
新訳の半数以上もまた、つまずいています。

◆自分の星に帰る、つまり死ぬことを選んだ王子さまですが、怖れ、ためらいを禁じえない。語り手が王子さまを幼子のように抱きしめる場面。自分の星に帰ってから、愛するバラに害が及ばないような準備は大丈夫かどうか、王子さまは真剣に思いを巡らせています。
《王子さまは真剣なまなざしではるか遠くを見つめていました》とでも訳されるべき文が、
王子さまは、遠いところで迷子にでもなったように、きっとした目をしていました

◆物語の発端、飛行機が《パンク》してサハラ砂漠に不時着したりしてしまう細かな問題から、作品の思想にかかわるような「文体」の問題まで、「噂」の真相を明らかにします。

◆本書が論じる「定番」と新訳書一覧◆

内藤濯 訳『星の王子さま』、岩波少年文庫 001、岩波書店、初版1953.3.15、新版2000.6.16
小島俊明 訳『星の王子さま』、中央公論新社、2005.6.25
三野博司 訳『星の王子さま』、論創社、2005.6.30
倉橋由美子 訳『新訳 星の王子さま』、宝島社、2005.7.11
山崎庸一郎 訳『小さな王子さま』、みすず書房、2005.8.24
池澤夏樹 訳『星の王子さま』、集英社文庫、集英社、2005.8.31
川上勉・廿樂美登利 訳『プチ・プランス』、グラフ社、2005.10.25
藤田尊潮 訳『小さな王子』、八坂書房、2005.10.25
石井洋二郎 訳『星の王子さま』、ちくま文庫、筑摩書房、2005.12.10
稲垣直樹 訳 『星の王子さま』、平凡社ライブラリー 562、平凡社、2006.1.11
河野万里子 訳『星の王子さま』、新潮文庫、新潮社、2006.4.1
河原泰則 訳『小さな星の王子さま』、春秋社、2006.5.10
谷川かおる 訳『星の王子さま』、ポプラ ポケット文庫、ポプラ社、2006.7
野崎歓 訳『ちいさな王子』、光文社古典新訳文庫、光文社、2006.9.20
三田誠広 訳『星の王子さま』、講談社 青い鳥文庫、講談社、2006.11.15