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幽玄・あはれ・さび――大西克礼美学コレクション1

日本特有の美概念を理論的に把握する大西選集・全3巻

長く理論的考察がなされないまま、独特の美概念としてただ体験的に論じられてきた 「幽玄・あはれ・さび」 の理論的様相を、美学者の立場から明かした画期的業績。 西欧美学の枠を破り、日本特有の美概念をも組み込んだ新たな普遍美学への試み。

コレクション2巻 自然感情の美学
コレクション3巻 東洋的芸術精神

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著者 大西克礼
書名 幽玄・あはれ・さび 大西克礼美学コレクション1
体裁・価格 A5判上製 320p 定価5720円(本体5200円+税10%)
刊行日 2012年12月30日
ISBN 978-4-906917-08-2 C0070

●著者紹介

大西克礼 (おおにし・よしのり)

1888年生、1959年歿。美学者。東京大学名誉教授。

主要経歴
1913年、東京帝国大学文科大学哲学科卒業。1914年、同大学院退学。1927年、東京帝国大学助教授となり、美学研究のためドイツ、イタリア、フランス留学。1929年、東京帝国大学文学部美学美術史第一講座担任となる。1931年、東京帝国大学教授となる。1946年、帝国学士院会員となる。1949年、東京大学停年退官。

主要著作
『美学原論』(1917年) 『現代美学の問題』(1927年) 『カント「判断力批判」の研究』(1931年) 『美意識論史』(1933年) 『現象学派の美学』(1937年) 『幽玄とあはれ』(1939年) 『風雅論――「さび」の研究』(1940年) 『万葉集の自然感情』(1943年) 『自然感情の類型』(1948年) 『美学』(上巻1959年、下巻1960年) 『古典的と浪漫的』(1960年) 『浪漫主義の美学』(1961年) 『浪漫主義の美学と芸術観』(1968年) 『東洋的芸術精神』(1988年)

主要訳書
カント著『判断力批判』(1932年)



●目 次

I 幽玄とあはれ

幽 玄 論

1. 芸術としての歌道/美学的思想としての歌学
2. 価値概念としての「幽玄」と様式概念としての「幽玄」/「幽玄」の文献的用例/古代の歌論その他に於ける幽玄概念
3. 中世歌学に於ける幽玄概念の発展/俊成/長明/定家
4. 正徹/心敬/世阿弥の能楽論に於ける「幽玄」/禅竹の幽玄概念
5. 「幽玄」と「有心」/「幽玄体」と「有心体」
6. 様式概念の価値的意味と記述的意味/中世歌学に於ける様式的思想の構造
7. 美的概念としての「幽玄」の内容/その考察の観点
8. 幽玄概念の美的意味の分析/美的範疇としての「幽玄」/「崇高」と「幽玄」

あはれについて

1. 「あはれ」の概念の多義性/その美学的考察の困難
2. 「あはれ」の語義の検討/その積極的意味と消極的意味/それ等の意味と価値との関係
3. 「あはれ」に関する宣長の説について
4. 感情の「深さ」の意味/「あはれ」の主観主義的解釈について
5. 「あはれ」の心理的意味より美的意味への展開/その一般的美的意味より特殊的美的意味への分化
6. 美的体験としての「あはれ」の構造
7. 美と「あはれ」/悲哀と美との関係
8. 美の現象学的性格と哀愁
9. 平安朝時代の生活気分と「あはれ」/美的文化の発展
10. 知的文化の欠陥/唯美主義的傾向/アンニュイの概念
11. 平安朝時代の自然感情と「あはれ」/その生活様式と自然感情/自然の「時間性」に対する感覚
12. 「あはれ」の用例に関する研究/「あはれ」の意味の五段階
13. 特殊的美的意味に於ける「あはれ」の用例
14. 情趣象徴の問題について/情趣象徴に於ける「直観」の契機
15. 美的範疇としての「あはれ」の完成/その用例

II 風 雅 論 ―― 「さび」 の研究

第1章 序 論

「さび」とわが国民的美意識/「さび」の美的内容に関する理論的研究の欠乏/その原因/歴史的研究の見地/美及び芸術に於ける日本的性格(精神性)/日本的美的概念の美学的研究/「さび」に関する美学的研究の方法/(1)語義並に用例の検討/(2)俳諧の美学的考察/(3)俳論に現れたる美学的問題の考察

第2章 俳論に於ける美学的問題(1)

俳諧に関する芭蕉の説/その資料について/「祖翁口訣」/「幻住庵俳諧有也無也関」/「二十五箇条」/その真偽について/不易流行の問題と虚実の問題/俳論の系統に於けるそれらの問題の意義/「三冊子」の内容/風雅の誠/その解釈/不易と流行/「三冊子」と虚実の問題/俳諧と滑稽/俗談平話の要素/俳諧の題/支考の俳論/「葛の松原」/「続五論」/「俳諧十論」/それらの俳論と不易流行の問題/「続五論」に於ける新古論/「十論」に於ける変化論/「葛の松原」の一文/支考の虚実論/露川に対する論難/『虚にゐて実をおこなふ』/その意味/華実論/滑稽論/本情と風雅/風雅の華と実/姿情論

第3章 俳論に於ける美学的問題(2)

「山中問答」と虚実の問題/不易流行の問題の観点より見たる蕉門の俳論/許六の「篇突」/「宇陀法師」/去来の「花実集」/其角の言葉/芭蕉と其角/「旅寝論」の一節/俳諧の様式の問題としての不易流行/許六の血脈説/「青根が峰」に於ける去来、許六の論争/「不易」の概念と「流行」の概念/問題の偏局化/去来の風体論/「体」と「風」の区別/その解釈/「不易」と「体」及び「風」/知的意味の妥当性と美的意味の妥当性/様式概念と価値概念/蕉門俳論に於ける不易流行論と虚実論の位置

第4章 俳諧の芸術的本質と「風雅」の概念

創作と享受の関係より見たる俳諧の芸術的特性/連俳の芸術性の問題/子規の否定説/その批判/詩の集合的制作形式/浪漫主義の「共同詩作」/「附合」の芸術的活動/詩作と作品/創作と享受の内面的聯関/直観と感動の関係より見たる俳諧の芸術的特性/直観契機の優越性/「美」と「真」/体験的真実性/俳句的表現の観照性/第一次的素材的観照性と第二次的内容的観照性/その分裂的傾向の生ずる理由/和歌と俳諧/自然感的契機と芸術感的契機の関係より見たる俳諧の特性/形式と素材の関係/名詞のみの句/俳諧的芸術意思/芸術的精神の潜在的形成作用/俳諧に於ける「素材」の特別の意味/素材的範囲の拡大/丈艸の「詩歌俳諧弁」/俳諧に於ける季題の整理及びその意味/風雅の精神/精神態度及び生活態度としての俳諧/惟然の逸話/「風雅」の概念/「風流」の概念/それらの概念の変遷/「風月」/自然感的契機の強調/俳諧の「道」/「風雅」と「風流」の分化/俳諧の同義語としての「風雅」

第5章 「さび」の一般的意味と特殊的意味

「さび」の語源的多義性/美的賓辞と美的範疇/語義と範疇的意味との関係/分析的意味と綜合的意味/「さび」の語源/「荒ぶ」/「不楽」「寂蓼」/「宿」「老」「古」/「錆ぶ」/「然帯ぶ」/「翁さび」「神さび」/語源的意味の交流/歌合判詞に於ける「さび」の用例/「わび」の語義/俳諧及び茶道に於ける「さび」、「わび」の概念/狭義の対象的規定と広義の芸術的理念/芭蕉に於ける用例/諸家の俳文に於ける「さび」の用例/「十論為弁抄」に於ける「塩鯛」の句の評/風雅の「さび」/句の「さび」(去来抄)/「位」「しをり」「細み」/俳諧の四義(「芭蕉葉ぶね」)/「古池」の句(「雅文せうそこ」)/「さびしをり」の説明(許六、去来)/凉岱の「南北新話」/茶道に於ける「わび」の概念/わび茶の心(「南方録」)/わびと仏心/「さび」と「わび」

第6章 美的範疇としての「さび」(1)

「さび」の内容の方法的考察について/「さび」の第一の語義に基づく美的内容の形成/それに対する二つの観点/孤寂、孤独と美意識/単純、質素、淡泊、清浄/茶道に於けるそれらの諸性格/茶道の諸文献に現れたる「わび」の意味/「清巌禅師茶事十六ヶ条」中の佗茶の話/所謂茶禅一味について/「禅茶録」の説/茶の道学的解釈/美的意味に於ける特殊の精神的態度/コーンの美学に於ける滑稽論/「さび」と「フモール」の類比/俳諧の「をかしみ」/虚実論の意味/俳諧と「イロニー」的観念論/浪漫的「イロニー」/自我の自由性の享受――美的「イロニー」の一例/俳諧の本質と洒落の気分/「俳仙窟」の話/「虚実」の三種の意味

第7章 美的範疇としての「さび」(2)

「さび」の第二の語義に基づく美的意味/空間的、減殺的意味と時間的、集積的意味/二つの観点/古雅、高古/精神的価値の契機/宿、老、古の意味と芸術の様式/「老年芸術」/「闌位」/ジンメルの老年芸術論/時間的変化と時間性の集積/生命及び精神との聯関/自然と生命/アニミズム/器物の古色/「生」の雰囲気/内面的意味に於ける時間性の集積/人間的価値感情の移入/宿、老、古の意味の美的転化/「さび」の第一、及び第二の意味の結合/観点の変化/俳諧の素材に於ける「さび」/自然の時間的変化と「生」の体験/芸術の表現と「体験的現実」/「不易流行」の根本義/俳諧に於ける体験的真実性の表現と自然の形而上学的実相/俳諧的表現の美としての「さび」/美的態度の自己超克/沢庵禅師「不動智神妙録」

第8章 美的範疇としての「さび」(3)

「さび」の第三の語義に基づく美的意味/「然帯び」の用例について/「然帯び」の意味と「さび」の第一、及び第二の意味との聯関/物の「本質」と「古さ」/一般的美的意味の観点と特殊的美的意味の観点/ヘーゲル、及びフィッシャーの「美」の解釈/イデーの感覚的顕現/類型美/クラシックの美と「さび」との相異/ヘーゲルの「古典的芸術」と「浪漫的芸術」/精神と自然の関係に於ける「否定の否定」/その具体的説明/美的現象の自己破壊と自己再建/芭蕉の臨終の言葉/不即不離の関係と直観の遮閉/俳句の表現に於ける不透明性/「本情」と「風雅」/物我一如/美的範疇としての「さび」の体系的聯関について/「さび」と「フモール」/「フモール」の意味/「さび」の第二の意味と「フモール」/神秘主義的諦観/「さび」の精神的態度に於ける根本的緊張関係/「崇高」と「さび」/「さび」の第三の意味と「フモール」/精神の最高の自由性/「幽玄」と「さび」の区別/芭蕉の雄大豪壮の句について/結論

第9章 「さび」の美的限界と茶室の美的価値

「さび」の美的意味に於ける限界/上向的限界/茶道に於ける精神性と感覚性/下向的限界/感覚的意味の「さび」/茶入の釉、及び茶室の色彩/「さび」の感覚的意味の解釈/感覚主義の排除/色彩象徴/茶道に於ける「わび」「さび」の具体的顕現について/茶道の構成的要素/茶室建築の芸術的性格/茶室の閑寂性(自然への帰入)/自然の閑寂性の導入/自然景観の遮断/その事実の解釈について/象徴的関係の介入/茶室の遊戯性/建築的有用性の離脱/茶室の「躪口」とその解釈/茶室の自由性/反相称主義/茶室の「平面計画」/茶室の光線効果/「生活」の要求と美的要求の調和/結語