自然感情の美学 万葉集論と類型論――大西克礼美学コレクション2
日本特有の美概念を理論的に把握する大西選集・全3巻
人と自然とが対立しない美という日本人の感性の最深層を探る。 知性によって自然を統御支配するよりも、生活そのものを自然の多変性、多様性に順応させる文化の息吹。 万葉集等の事例を豊富に検証し、西欧の歴史的諸類型と比較しつつその特異性を明かす。
コレクション1巻 幽玄・あはれ・さび
コレクション3巻 東洋的芸術精神
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著者 大西克礼
書名 自然感情の美学 万葉集論と類型論
大西克礼美学コレクション2
体裁・価格 A5判上製 352p 定価5940円(本体5400円+税10%)
刊行日 2013年2月28日
ISBN 978-4-906917-11-2 C0070
●著者紹介
大西克礼
(おおにし・よしのり)
1888年生、1959年歿。美学者。東京大学名誉教授。
主要経歴
1913年、東京帝国大学文科大学哲学科卒業。1914年、同大学院退学。1927年、東京帝国大学助教授となり、美学研究のためドイツ、イタリア、フランス留学。1929年、東京帝国大学文学部美学美術史第一講座担任となる。1931年、東京帝国大学教授となる。1946年、帝国学士院会員となる。1949年、東京大学停年退官。
主要著作
『美学原論』(1917年)
『現代美学の問題』(1927年)
『カント「判断力批判」の研究』(1931年)
『美意識論史』(1933年)
『現象学派の美学』(1937年)
『幽玄とあはれ』(1939年)
『風雅論――「さび」の研究』(1940年)
『万葉集の自然感情』(1943年)
『自然感情の類型』(1948年)
『美学』(上巻1959年、下巻1960年)
『古典的と浪漫的』(1960年)
『浪漫主義の美学』(1961年)
『浪漫主義の美学と芸術観』(1968年)
『東洋的芸術精神』(1988年)
主要訳書
カント著『判断力批判』(1932年)
●目 次
I 万葉集の自然感情
序論 神話の時代に於ける「精神」と「自然」との関係
1. 日本の神話に関する考察(1)
2. 日本の神話に関する考察(2)
3. 「オリムピアニズム」と「ナチュリズム」
第1章 西洋に於ける自然感情の発達
第2章 万葉集に現れたる自然感情
1. 万葉集に於ける自然感情の特性
2. 万葉的自然感情と浪曼的自然感情
第3章 万葉的自然感情の美学的考察
1. 風土的自然と民族的生活様式
2. 美的感情移入と交感的自然感情
第4章 万葉的自然感情の展開
1. 客観的自然観照の方向
2. 美的自然体験の定型化(1)
3. 美的自然体験の定型化(2)
II 自然感情の類型
序論 自然感情の歴史的類型と民族的類型
歴史的類型/古代の客観的自然感情と近世の主観的自然感情/民族的類型/ビーゼの説/綜合的見地に立つ類型論の方法/客観的及び主観的自然感情と美的意識/主観的自然感情の三形式/交感的自然感情/「素朴的―交感的自然感情」と「浪漫的―交感的自然感情」/展開過程と成立過程/綜合的類型論的方法の根拠
第1章 交感的自然感情の二形式
(1)「浪漫的」の概念/ゲーテの自然感情/浪漫的―交感的自然感情の典型/その根柢/その発展上の三期/「ヴェルテル」にあらわれたる自然感情の例/「ファウスト」第一部の自然感情の例/「詩的汎神論」/「スイスよりの書翰」/壮美の感情/「イタリア紀行」/「旅人の夜の歌」について
(2)「素朴的―交感的自然感情」/万葉集にあらわれたる自然感情/自然愛/「山」に対する感情/ペトラルカの話/万葉集の「山」の歌/富士の歌/筑波の歌/二上山及び立出の歌/万葉集の言葉/隠喩/わが上代文学における素朴的―交感的自然感情の表現の分類/1.否定的表現とその内面的根拠/2.暗示的形式と気分象徴的感情移入/気分象徴の二形式/静観的と力動的/3.直接的表現とその内面的根拠/反応的感情と対象的感情/4.無意識的表現と宇宙的感情/特殊の叙景詩/浪漫的交感性と素朴的交感性
第2章 客観的自然感情の類型
(1)「精神」と「自然」との離開ないし対立/シルラーの「素朴的及び情念的文学について」/古代ギリシャ人の自然感情/ホメーロスの詩における自然美/フムボルトの説/ホメーロス的自然譬喩/ビーゼの古代的自然感情に関する研究とその結論/ビーゼの立場とシルラーの立場/ヘンニッヒのビーゼに対する批評/アルクマンの詩の例/ヴェルギリウスの詩の例/西欧古代の客観的自然感情の特性/自然の細部描写
(2)素朴的―交感的自然感情の展開の第一段/定型化の傾向と観照的距離の拡大/平安朝初期の文学に現れたる客観的自然感情/理智性の解放/想像力の活動/自然に対する主知的擬人的観照/その二つの形式/聯想的観照と思惟的観照(不完全擬人法と超擬人法)/古今集における不完全擬人法の例/自然現象のモティヴィールンク/古今集における超擬人法の例/後撰和歌集の例/自然に対する「芸術的意味」の投入/自然における「詩」と「芸術」/「神の工み」/わが民族の自然美に対する感覚/客観的自然感情と機智/古今集の例/誹諧歌/土佐日記にあらわれたる客観的自然感情
第3章 宗教的自然感情の類型
(1)東西の宗教的自然感情について/宗教的自然感情の中核/自然に対する宗教的感情と美的感情/西欧における宗教的自然感情の歴史的淵源/アリストテレス及びセネカの言葉/ギリシャ的教父の書翰にあらわれたる自然感情/宗教的自然感情に含まれたる内面的矛盾/異教的美的伝統とキリスト教的思想/バジリウスの書翰の一節/グレゴリウス・フォン・ナチアンツ及びグレゴリウス・フォン・ニッサの詩文/ヨハネス・クリソストモスの言葉/フェリックスの「オクタヴィウス」の一節/キリスト教的象徴主義/アポリナリス・シドニウスの書翰/聖アウグスティヌスの「告白録」/宗教的自然感情の伝統
(2)わが国の自然感情の発展史における宗教的自然感情の意義/その消極性/自然感情に対する仏教の影響/古今集、拾遺和歌集、後拾遺和歌集その他における宗教的自然感情の歌/千載集、新古今集及び山家集における宗教的自然感情の歌とその内容について/1.無常感/2.出離の思想及び孤独感/3.浄土欣求の思想/4.往生及び後生の観念/5.「聖」の感情及び罪業感/6.霊跡感/7.煩悩(或は開悟)/8.内在的矛盾の自覚/それらの歌の例/西行の宗教的自然感情について/俊成における歌道と仏道/神祇に関する宗教的自然感情の歌/平家物語熊野参詣の条/同寂光院の記述/長明の方丈記/その結末の文章
第4章 感傷的自然感情の類型
(1)自然感情と時代ないし文化との関係、及びそれについてのポーランの説/自然感情における感傷的類型と浪漫的類型/ロココ趣味への反動/ルウソーの「自然に帰れ」/感傷主義の先駆/ペトラルカにおける「近代性」/「アケディア」/その自然感情/孤独の欲求/十八世紀のドイツ詩人の感傷主義/ゲオルク・ヤコビの詩/クロップシュトックの感傷性/フランスの感傷主義/ルウソーの感傷主義と自然愛/その書翰の一節/その告白録/「孤独な散歩客の夢想」/反文化主義、厭人主義/「浪漫的」自然/「アルペンナツール」の美/ゲスナー、サウシュール/ルウソーの自然体験の特異性/「ラ・ヌーヴェル・エロイーズ」/ベルナルダン・ドゥ・サン・ピエル
(2)わが国の感傷的自然感情/平安末期の社会的変動/東西の感傷的自然感情の比較/男性的、積極的、反動的、熱情的と女性的、退嬰的、消極的、悲観的/感傷的自然感情の対象/古典的と浪漫的/の根拠/仏教的悲観主義と「アケディア」/交感性の意味/「同情」と「共感」/「精神」と「自然」との関係/自然の慰藉と「物のあはれ」/主観的観念論の傾向/わが国中古の文学における感傷的自然感情/和泉式部の歌及び日記/建礼門院右京大夫家集/「性格」による感傷主義と「運命」による感傷主義/物語文学及び日記文学/源氏物語にあらわれたる自然感情/「紫家七論」の説/自然美に対する趣味判断/「蜻蛉日記」の自然感情
第5章 浪漫的自然感情の類型(1)
浪漫的自然感情と汎神論的思想傾向/カント及びヘルダーの「浪漫的」の概念/ヘルダーの自然感情/シルラーの自然感情/その理想主義/ワーズウォース/バイロン/「チャイルド・ハーロルド」の一節/シェレイ/「宇宙感的」なるもの/シャトウブリアン/ラプラードの説/「天上的郷愁」/「ル・ジェニー・デュウ・クリスチャニズム」の一節/「ルネ」の一節/ラマルティーヌ/ヴィアットの説/「メディタッシオン」の一節/「調和」/ユーゴー/ラプラードの批評/「コンタムプラッシオン」の一節/ドイツの浪漫派詩人/ジャン・パウルの言葉/浪漫派の精神的傾向/「ヒュペリオン」/「自然の魂」/ティーック/「ウィリャム・ロヴェル」の一節/「シュテルンバルトの漫遊」/気分象徴/シネステジー/音と色/ノヴァーリス/「夜の讃歌」/「ハインリッヒ・フォン・オフターディンゲン」の一節
第6章 浪漫的自然感情の類型(2)
わが国の文学にあらわれたる浪漫的自然感情/その特異性の由來する根拠/社会的歴史的事情/理想への渇望と浪漫主義/宗教的自然感情と浪漫的自然感情/山家集における西行/東西の自然感情の発展方式/美的観照的距離の内面的発展/汎神論的世界観/主観的観念論と客観的観念論/自然に対する情趣象徴的観方/新古今集時代の文学/「幽玄」思想/千載集及び新古今集における情趣象徴的自然感情の歌/詩的美と絵画的美/「心」の客観的実体化/その例証の歌//唯美主義の傾向/一般的浪漫的自然感情の歌/山家集における浪漫的自然感情の歌に関する考察/西行の自然愛/一種の「浪漫的イロニー」/物語、日記等における浪漫的傾向/狭衣物語及び住吉物語の一節/浜松中納言物語、松浦宮物語/更級日記の作者及びその自然感情について/春秋優劣論/自然感情と音楽との関係/海道記、東関紀行/懐古趣味/連歌師の紀行文/懐古趣味と「廃墟の美」
第7章 俳諧的自然感情
再び東西の自然感情の歴史の相異について/俳諧文学に現れたる自然への特殊の精神的態度/俳諧的自然感情の精神的根柢/体験的現実性とその反省/広義の静観的態度/知的静観性と美的静観性/浪漫的美意識/浪漫的自然感情と俳諧的自然感情/高次的自我の立場/物我一如の境/素材世界の拡大/芭蕉の言葉/惟然の話/鬼貫の「独言」/「まこと」/「共同詩作」/鬼貫の俳句の例/「七車」の序/古池やの句/蕪村の句/俳諧的直観の鋭さと深さ/俳諧的精神の構造と世界観/汎美論の立場と俳諧の素材/和歌と俳諧/自然と「生」/自己解脱の精神/宇宙的生命の神秘/芭蕉の紀行文/日常的、歴史的、形而上学的の「生」/万葉以来の自然感情の発展径路/本質直観/「物の所詮」/俳文の例/その独特の譬喩及び擬人/「百鳥譜」及び「百花譜」/「蓑虫の説」/也有の「うづら衣」の例/擬人と寓意/俳諧的自然感情の深さ/芭蕉その他の句の例/「銀河序」/わが民族の自然感情の発達について