Shoshi Shinsui




俗戦国策

『百魔』と双璧をなす、其日庵・杉山茂丸の大作主著

政財界の舞台裏。縦横の策を講じ、伊藤博文、山形有朋らの元老を、無私の誠で操った、影武者「ホラ丸」回顧録。

《庵主は昔から、自ら土龍(もぐらもち)と称して、世の中に名を出す事が大の嫌いで、単独で、地底ばかりを潜りあるいた男ゆえ、自己の関係した事を世に公にした事は今日まで一度もないのである。 然るに今回、多くの人に慫慂されたように、モウ死期が近づいたには相違ないから、このままに死ねば何事も総て堙滅して仕舞うから、四十年間も独り心中に秘して居った事を、トウトウその概略だけ書き綴る事となったのである。》

《ここにおいて庵主は、青年達に向かって云う。「能率なき学問に中毒して、能率なき行為をなしてはならぬ。学問は前途に進歩発展を見越している全くの未製品である。正に以て人間が使用すべき物の一つが学問である。それに人間が使われてたまるものでない」と。人道と云うものは、簡単明瞭なものである。「智者は愚者を導き、強者は弱者を助け、富者は貧者を賑わす」、わずかにこの三つで足りるのである。しかるに現世界における学問中毒の大勢は、総てこれが反対である。「智者は愚者を欺(あざむ)き、強者は弱者を凌(しの)ぎ、富者は貧者を虐(しいた)げる」。》


   




著者 杉山茂丸
書名 俗戦国策
体裁・価格 四六判上製(糸かがり製本) 608p 定価5500円(本体5000円+税10%)
刊行日 2006年4月30日
ISBN 4-902854-15-5 C0095

杉山茂丸の別の本

『百魔』
『百魔 続』
『其日庵の世界』

◆著者紹介◆ 杉山茂丸 (すぎやま・しげまる) *こちらもご参照下さい



1864(元治1)〜1935(昭和10)。自称(号)其日庵。在野の国士。一人一党の無位無官で通し、明治・大正・昭和政財界の舞台裏で、経済・内治・外交・軍事を不可分とする経綸を生涯の仕事とした。国内・台湾・朝鮮における鉄道・港湾開発事業や銀行の創設、満鉄会社の創設、外債導入などの実業面から、日清日露の開戦および終戦・講和などの軍事・外交面、さらに内閣や政党の組織工作まで、元老・要人を説き伏せ動かし、重大国事の影武者として活躍。その無私の提言が、伊藤博文、山県有朋を初めとする元老や内外の大資本家を動かした。

福岡生まれ。民権論への接触や、勤王開国思想を持つ黒田藩士の父と地元の師の影響により、十代半ばで政治に開眼。藩閥政治打倒の意志を抱き、藩閥首領の殺害を企てて上京するが、殺害目的で訪問した伊藤博文の説諭や同郷の先輩頭山満の助言を受けて自己の不明を反省、性急な過激主義を放棄する。藩閥に対抗する政党勢力の無責任な行動を目の当たりにして、むしろ藩閥勢力を善導することにより国事を扶翼する方針を定め、以後この方針で一貫。国策としてこれを善とみたものは万難を排して実行に移し、大胆卓抜な発想、機転、逆理、能弁により、私心なく要人を操るその手腕は人形遣いにも喩えられ、「ホラ丸」の称も。また、運営する築地台華社は「内閣製造所」とも評された。

筑前玄洋社とは別行動をとったものの協力関係にあり、ことに頭山満との相互信頼は深甚。1935(昭和10)年には頭山・杉山締交50年金菊祝賀会が催された。著作は、代表作の『百魔』および本書のほか、趣味とした義太夫浄瑠璃関係(岩波文庫あり)を含め多数。小説家夢野久作は長子。

遺言により遺体は国に献体され解剖。遺骨は東大医学部標本室に組立保存され、頭山満による以下の文が掲げられた。「杉山茂丸其日庵ト称ス 余ト同郷ノ盟友ニシテ国士也 縦横ノ機略ヲ以テ朝野ノ諸勢力ト相結ビ新興日本ノ諸政ニ参画シ不偏不党国運ノ進展ヲ扶翼シ隠忠ノ誠志ヲ一貫ス 又平生死体国有論ヲ唱ヘ遺言シテ自己ノ遺骸ヲ東京帝国大学ニ寄附セシム 元治元年生レ 昭和十年死ス 享年七十二」



玄洋社員とその関係者

後列左から、武井忍助、古賀壮兵衛、大原義剛、内田良平、的野半助、月成勲、児玉音松。
前列左から、月成功太郎、福本日南、頭山満、内田良五郎、進藤喜平太、杉山茂丸、末永純一郎。(明治38年頃)


◆目 次◆

我国上流の腐敗、下流の健全

◎世の勝者と敗者 ◎社会を乱す者 ◎人道の自覚者 ◎庵主六十四年の秘策 ◎庵主十四歳の頃

決闘介添事件

◎自由党員と帝政党員 ◎二挺のピストル

黒田清隆と初対面

◎後藤象二郎の添書 ◎井上毅の義侠

生首抵当事件

◎生別又死別 ◎佐々友房 ◎袋経済 ◎死亡届 ◎生首の質受 ◎佐々、長谷場両氏泣きつく

背汗三斗

◎泡沫野郎 ◎地球の成立 ◎蛆虫 ◎ランド ◎日本

雌伏して風雲を狙う新聞売子

◎藩閥の暴威 ◎尾崎文部大臣の脱線 ◎誠の男の働き振りを見よ

帝国憲法発布

◎囂々たる輿論 ◎欽定憲法 ◎憲法制定の理由 ◎民主主義の元祖

東亜の大経綸と大官の密議

◎我国永遠の大策 ◎西伯利亜問題 ◎支那領土保全問題

血を以て彩る条約改正事件

◎沐猴冠振り ◎国論囂々たる条約改正問題 ◎仏人ポアソナードの忠誠 ◎隠れたる志士、荒尾精

爆弾事件(大隈伯の片足が飛ぶ)

◎保安条令 ◎猫の様に独りで喰ってはイケない ◎兇漢来島恒喜 ◎後藤象二郎立つ ◎突如後藤に朝命下る

星亨との強談判

◎星亨、怒鳴り込む ◎腹一杯鶏を食う ◎星のために弁ず

決死の苦諫、伊藤公に自決を迫る

◎伊藤公、韓国統監となる ◎伊藤、約を破る ◎藤公と一騎打 ◎決然! 長船則光の短刀

一億三千万弗借款事件

◎総理大臣相手に経済論争 ◎頭山翁ビックリ仰天 ◎藤田伝三郎の霊に手向ける ◎二万円転げ込む ◎素裸で茶漬飯を喰う ◎黄金王モルガンとの問答

政府と三菱の大経済戦

◎三菱の今日あるは大隈重信のお蔭 ◎我死すとも戦には負けるな ◎日本郵船会社成る ◎松方蔵相を訪う ◎危く一騒動

悪政党撲滅論

◎政党内閣の鼻祖 ◎悪政党の撲滅を画す ◎山県の政党嫌い ◎原敬と張り合う ◎政友会成る

児玉・後藤と台銀問題

◎煩悶病院長 ◎後藤新平、仲々話せるわい ◎台湾銀行設立の前後

日露開戦の魂胆

◎大命井上馨に下る ◎夜半井上邸に馳す ◎児玉大将一世の熱弁 ◎伊藤、桂の大論戦

公然たる賄賂収容銀行兼賄賂行使銀行

◎京浜銀行 ◎星の子分病 ◎秘密結社内閣 ◎曾禰外務兼大蔵大臣へこたれる ◎寺内陸相立会証人となる

古鉄責め事件

◎乃木将軍、庵主を叱る ◎日本製悪糖会社 ◎井上雷公、児玉総督をどなりつく ◎馬越恭平、男でゲス

伊藤公の霊に捧ぐ

◎日露戦争内閣 ◎日英同盟の犠牲者伊藤公

日露開戦

◎思い起すトラファルガー ◎日露談判の方針確定(山県の別荘無隣庵会議) ◎咄! 無礼極まる露政府の返答 ◎日露の戦端開かる ◎骨抜きの日英同盟 ◎偉なるかな小村の胆 ◎我が露西亜観 ◎要心せよ日本国民 ◎二大国是

牢記せよ国難に当れる先輩の苦心

◎猿と蟹と蜂 ◎児玉大将に暗号電報飛ぶ ◎深夜山県邸へ(軍機泄洩説) ◎桂首相、突然庵主を招く ◎媾和曙光 ◎小村外相、金子子爵の奮闘 ◎戦勝と伊藤、山県、桂、小村

戦後の大経綸――満鉄の創立

◎山県元帥、叡旨を奉じて奉天に行く ◎児玉大将と南満洲の経営策を語る ◎官民合同の南満洲鉄道会社成る ◎佐久間大将、台湾総督就任 ◎庵主の奇策 ◎後藤新平、怒鳴り散らす ◎児玉大将の死 ◎後藤新平、満鉄総裁となる ◎原総理、庵主を皮肉る

反対党も陛下の忠臣

◎自由の神板垣を、病床に訪う ◎山県は痩せた家康 ◎板垣、大隈は陛下の寵臣

電車市有問題

◎村上太三郎、小池国三君、深夜の訪れ ◎恐慌は防がねばならぬ ◎コンミッション三百万円 ◎後藤の寝覚め

大隈内閣、寺内内閣、政党の罪悪――内閣総理大臣の候補者

◎元老の上奏 ◎大隈の出廬 ◎国防会議 ◎政界の二大大法螺吹 ◎大隈と寺内

寺内・原・加藤・田中

◎寺内首相に辞職勧告 ◎西園寺侯と原敬 ◎原内閣出現 ◎原敬の最後 ◎原から加藤まで ◎田中首相に進言

付 録 (参考略年譜・杉山茂丸主要著作・主要著名人物略歴)